徒手療法では
「全身」を診るべきか
「患部のみ」を診るべきか

最終更新日:2021/1/14

私は医療系の国家資格を取得して徒手療法の世界に入ってから、今年(2021年)でだいたい 14 年目になります。

その 14 年の月日の中で、施術の方法論について十年以上前から今に至るまでずっと悩み続けていることがあります。

一応、去年か一昨年くらいに自分のなかでの暫定的な答えは出しておりますが、それでも今なお、最終的に自分が施術者としてどちらの道をとるのかという部分では悩みを抱えています。

その悩みとは、「徒手療法の施術では『全身』を調整するのと訴えのある不快症状に直接関係する『患部のみ』を調整するのでは、どちらのほうがより患者さんにとっていい結果が得られるのか」という問題です。

技術に自信がない施術者は
全身のほうがいい

30 冊以上の国内外の徒手療法の専門書を読み漁り、十年以上にわたって患者さんの体を使って実地試験を続けてきた結果、私は、「自分の技術に絶対的な自信のない施術者は、『患部のみ』でなく『全身』の調整をしたほうがより良い結果が得られる可能性が高い」という結論を出しました。

体には前後左右上下にいたるまで、体が自然にバランスをとろうとする「代償」と呼ばれるメカニズムが存在します。

なので、たとえ体のどのパーツにどのような症状があろうと、その症状を引き起こしている原因が筋肉か筋膜か骨格(骨と関節)の可逆的な障害(改善可能な障害)であるならば、「全身」の調整をすればほぼ間違いなく施術前よりも体の状態は良くなります。

ただ当たり前ですが、限られた時間を「患部のみ」でなく「全身」に割り振ってしまうので、結果として得られる効果が「患部」のみの施術が成功した場合よりも薄い感じのものになってしまうのはほぼ間違いないでしょう。

技術に自信がある施術者は
患部のみのほうがいい

なので、もしも自分の知識と技術に絶対的な自信があるのであれば、徒手療法の施術者は、間違いなく「全身」ではなく患者さんが訴えている不快症状に直接関係する1ヵ所から3ヵ所くらいまでの「患部のみ」を集中して調整するべきでしょう。

限られた時間をすべて必要な場所にのみ割り振ることができれば、そのほうが「全身」をまんべんなく調整するよりもどう考えても明らかに良い結果が得られるはずです。

ただ、この「患部のみ」を診る方法には1つ致命的な問題があります。

それは、「そもそも毎回再現性をもって『患部のみ』の施術を成功させられるような高度な知識と技術を持った施術者など現実にはほとんど存在しない」という点です。

施術者はみんな自分が
すごい技術者だと思い込んでいる

おそらく同業の先生方からは大なり小なりの批判を受けるでしょうが、いわゆる「治療家」と呼ばれる人たちには、職業の従事年数に関わらず1つの激しい思い込みを持っていることがとても多いです。

その思い込みとは、「自分が日本で有数の医学的知識と徒手療法の技術を持った特別な存在である」というかなり残念な思い込みです。

これ、マジでほんとによくあるんですよ。

そもそもこの徒手療法の世界に飛び込んでくるタイプの人達というのは、私もひっくるめて、人の下でアゴでこき使われるのがイヤな自主独立系の思想をもった人たちが多いです(私の主観です)。

それでこのような価値観や思想をもった人たちが、毎日毎日患者さんからお金をもらいながら「先生ありがとうございます!」とか「先生お願いします!」とかいう感じで頭を下げられているわけです。

「そりゃあ、誰だって勘違いしちゃいますよね」って思いませんか? 私は生まれつきかなり卑屈というかヒネくれている人間なのでそこまで天狗になることはありませんでしたが、それでもやっぱり勘違いしてしまっていた時期というのはありました。

よほど自制心というか精神力が強い人間でなければ、この業界で最初から最後まで一貫して思い上がらないでいられるというのは、「とても稀なことなのではないかな」と思います。

自分では「できている」と思っていても
実際には「できてないこと」が多い

実際、私も 2 ~ 3 年くらいは、「全身」ではなく患者さんが訴えている不快症状に関係する「患部のみ」に焦点を当てて施術をしている時期もありました。

徒手療法の世界で言うところの、「カギとなる障害にのみ焦点を当てる」というやつです。

先ほどもちょっとご説明しましたが、理論上は明らかに、「患部のみ」の施術のほうが上手くいった際に患者さんが得られるメリットの総量は多いです。

そして私も、一時期は「患部のみ」の施術から患者さんが得られている健康的なメリットに満足していましたし、その路線をさらに追及していこうと考えていました。

しかし何かのきっかけで思想を変えて「全身」の調整に施術を切り替えたときに、今までの「患部のみ」の施術をしていたときよりも体調が良いという患者さんが何人も確認できてしまいました。

というか、「患部のみ」から「全身」に施術を切り替えて、誰ひとりの例外もなく、一切のご意見やクレームがなかったのです。

この事実に直面したときに私は、「ああ、今までは『できてる』と勝手に思い込んでいたけれど、じつはぜんぜん『できてなかった』んだなあ…」と痛感してしまいました。

私のこの経験がすべての施術者さんに例外なく当てはまるとは思いませんが、今までの自分の実体験や見聞きしてきた経験から、「6割以上の施術者さんにはこの法則は当てはまっているのではないかな」と考えています。

自分がいま現在「できている」と勝手に思い込んでいることと、それが他人の目から見て実際に「できている」かどうかということとは、まったくの別問題なのです。

この5択問題を
あなたならどう判断しますか?

「患部のみ」の施術で「全身」の施術よりも高い効果を出す難しさを体験してもらうために、次のような5択問題を用意してみました。

日々臨床に関わっている施術者さんならばほぼ確実に毎日経験するようなありふれた問題ですが、それでも、正解を選択するのはかなり難易度の高い難問です。

もし興味があればぜひ一度チャレンジしてみてください。

 

【 問題の前提 】

あなたは整体の施術者です。あなたのもとに松木さんという新規の患者さんがやってきました。

松木さんは十年来の慢性の首、肩、背中上半分の不快感というか慢性疼痛を訴えています。症状はすべて右側に出ています。左側には自覚症状はありません。

あなたは一通りの問診をしたあと、松木さんをベッドの上に寝かせて触診検査を始めました。いろんな場所を触診した結果、あなたは次の5つの場所に特に硬いポイントと強い圧痛点を見つけました。

そのポイントとは、首の上部後頭部の付け根(右)と、首の下部肩の付け根部分(右)と、背中の上部肩甲骨の内側縁付近(右)と、背中下部の脊柱の外側縁付近(左)と、腰の中央やや外側部(右)です。

【 補足情報 】

を押さえると松木さんは「そこ痛いです」と言います。触診した感じでは少し硬いです。

を押さえると松木さんは「そこはそんなに痛くないです」と言います。触診した感じではそこそこ硬いです。

を押さえると松木さんは「そこすごい痛いです」と言います。触診した感じではなんかゴリゴリしています。

を押さえると松木さんは「そこが一番痛いです」と言います。触診した感じではそこまで硬い印象はありません。

を押さえると松木さんは「そこもけっこう痛いですね」と言います。触診した感じでは硬くて大きな分かりやすいシコリ(硬結)がありました。

 

さあここで問題です。

あなたはこの松木さんの症状を改善するために、① ~ ⑤ のポイントの中からもっとも症状との関連性が深い「カギとなる障害」であるポイントを1ヵ所だけ選ばないといけません。

もしあなたなら、松木さんの右上半身の不快感や痛みを改善するために、① ~ ⑤ の中から1ヵ所だけ、どのポイントを選びますか?

こんな意味不明な問題を
毎回ミスなく解けるがわけない

上記の問題は、実際の臨床の現場では、まだ簡単なほうです。

なぜならば、「選択肢がたったの5つしかない」からです。実際に全身を触診してチェックしてみると、異常な硬いポイントや痛みのあるポイントは、どんな症状の患者さんでも 10 ヵ所以上は余裕であります。

めんどうな症状を抱えている患者さんの場合はさらに多く、多い方では 20 ヵ所を超える場合も普通にあります(前後左右込み)。

こんな設問自体を間違っているような解きようのない問題から唯一正しい選択肢を毎回選ぶなんて、本気でできると思いますか?

私個人としては、そんなことは現実的には不可能だと考えています。なので先ほどの問題の私なりの答えは、「その選択肢の中から1つだけを選ぶことはできません。私ならば5ヵ所ぜんぶを調整します」というものになります。

はい、そうですね。つまり「患部のみ」ではなく「全身」を調整するという選択になってしまうわけです。

結論
腕によっぽどの自信がなければ
「全身」を調整したほうが確実にいい

それでは、今回のお話の私なりの結論を提示します。

徒手療法では、理論的には「患部のみ」の施術をしたほうが、患者さんにとってより良い結果を提供できる可能性が高いです。

しかし現実的には、人間の頭脳や感性では解きようのない理不尽な難問から毎回ミスなく正解の選択肢を選び出すことなどは不可能に近いと思われるので、「患部のみ」の施術よりも「全身」の施術をしたほうが、結果的に患者さんにとってメリットが多い可能性が高いです。

そんなわけなので、大変お恥ずかしいのですが、現時点では私は「全身」の施術をご提供することにしています。お客さんから直接的に「今日は肩だけでお願いします」的なことを言われれば別ですが、基本的には「全身」の施術をご提供させていただきます。

いずれは精度の高い「患部のみ」の施術をご提供できるようになりたいなと考えてはいるのですが、いまだにそのためのきっかけといいますか、光明すらも一切見えていない状態なので、おそらく私には「患部のみ」の施術を今後ご提供する機会はないのではないかな、と考えています。

今回のお話のまとめ

それでは最後に、今回のお話のまとめをさせていただきます。

  • 「全身」と「患部のみ」の施術では理論上は間違いなく後者のほうがいい。
  • しかし現実的には「患部のみ」の施術をミスなしで提供し続けるのはほぼ無理。
  • なので結果的には「全身」の施術のほうが患者さんにとってメリットが多くなる。

以上です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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